最後に、廃墟の時が流れたこの30年間に、島内に残された落書 きに関してです。
  現在の島内には至る所に落書きが残っています。勿論、なぜ落書

きをするのかという怒り混じりの感情は当然あるのですが、しかし、 それを言ったところで果たして落書きは減るでしょうか?
 

  エジプトの3大ピラミッドの内壁には建設当時のものと思われる 無数の落書きが残されています。その中には「ピラミッド建設は楽 しい」といった内容のものもあり、そこからかつて過酷な奴隷制度 による重労働の末に完成したと思われていたピラミッドが、実は作 業員にとっては農閑期のいい収入源であり、その労働も楽しいモノ だった。という説が導き出されました。落書きは太古の昔から人間 の行動の一部として常に行われてきた行為であり、また時には落書 きが新しい示唆を与えてくれることもあるのだという事実を教えて くれます。
 
  端島には、他の廃墟の類例に漏れず大量の落書きが残されていま すが、ここで気にとまるのは、島内の落書きが他の廃墟と比べて、 明らかに破格の時間と労力がかかったものが多いことです。普通落 書きというと殆どの場合はその場へ来た事を証明するようなもの、 そして個人の名前を残すものが大半を占めます。勿論島内にもその たぐいの落書きは沢山ありますが、それとは別に右画像のような、 少なくとも1〜2分では到底書けない落書きが沢山見あたります。 これらの落書きからは、ある意味創造力の爆発すら感じます。
 
  現在の端島に上陸して感じるのは、そこに溢れる強靱なパワーで す。恐らくそれはこの島が本来持つ磁場のようなものであり、また そこに残された遺構群が放つ、これまで見てきたような想像を絶す る創意工夫の歴史の強烈なオーラだと思います。これらの落書きを 残した人達の真意は分かりませんが、少なくともそのオーラに感化 された部分が多分にあるのではないかと思います。
 
  それと同時に、島を荒らさないで欲しいというメッセージを込め た落書き(これも落書きといえば落書きだと思いますが)も、いた るところに見あたります。これもまた廃墟内の落書きとしては珍し いことで、恐らく元島民やこの島に並々ならぬ思いを抱く人達の切 なる思いが形となって現れたものだと思います。
 
  いずれにせよこの島の歴史を思うとき、これらの落書きはほんの 些細なことに過ぎず、ともすれば落書きすら飲み込んで自らの歴史 の1ページにしてしまうくらいの懐の深さをこの島には感じます。



 
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